ナイロビの蜂

ナイロビの蜂 [DVD]

ナイロビの蜂 [DVD]

ずっと見たいと思っていた『ナイロビの蜂』。
すごく心に響くものがある映画でした。

☆あらすじ☆
レイチェル・ワイズ演じるテッサは、ケニア在住のイギリス外務省職員ジャスティン(レイフ・ファインズ)の妻。テッサはアフリカ人の医師と共に貧しい村人たちのために医療ボランティアとして働いていたが、旅先で惨殺される。テッサは実はアフリカ人医師と不倫していて、強盗に殺されたのだとジャスティンは言われる。

ジャスティンは、妻が医療ボランティアをしながらヨーロッパの大手医薬品会社を調査していたことを知る。
その会社「スリー・ビーズ(三匹の蜂)」は、アフリカの貧しい村を回って無料で医療を与える条件として、村人たちに結核の新薬の人体実験を受けさせていたのだ。

実験だからして、その新薬には危険な副作用があった。それで死んだ村人はみんな行方不明になっていた。現実を知って驚くジャスティンはこう言われる。
「あなたは、企業が単に善意だけで援助しているとでも思ってたのか?」
しかも、最悪なことにジャスティン以外のイギリス人外交官たちはすべて、その企業に加担していた。原作はスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレで、彼はアフリカで起こっている事実に基づいてこの物語を書いたと言っている。

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よくあるストーリーと言ってしまったら、それまでなのですが、他の政治サスペンス物と違い、とてもリアルに想像が出来、強烈な衝撃を受けました。

これは、小説を映画化した物でノンフィクションではないのでしょうが、この映画で描かれている製薬会社の非人道的な実験、それを利権(金)の為に支援している黒い社会は、多分現実にあるでしょう。

南アフリカに旅行に行った際、私は、整備されたリゾート地にしか行かなかったので、とても美しい自然の残る大地にただただ感動しどうしでしたが、移動中に車内から見た何キロも続くスラムの中は、この映画に出てくるスラムに近いものがあったと思います。
アフリカの中で一番の先進国である南アフリカであっても貧富の差は、非常に激しく、一般の人が住む街は、高い塀で覆われ、街の入り口には、警備員がセキュリティチェックを24時間した囲いの中に住居があります。そうでないと、強盗に入られるからです。一度入られた家は、徹底的にセキュリティを固めないと何度でも入られるそうです。また強盗に入られた場合、絶対に抵抗してはいけないそうです。抵抗する場合は、確実に相手を殺せる場合だけ。そうでないと必ず徒党を組んで報復されるからだそうです。

映画の中の殺害のシーンは、とても残忍で容赦が無く、魘されるものがありましたが、そのシーンは、私の中で、上で述べた南アフリカの現実の一片に結びつきました。そこまで残忍な行為に及んでしまうほど、貧困層の生活は、環境が好転する可能性が限りなく少なく、救いがないのだと思います。

ただ映画は、そういった絶望感を描いているのではなく、その環境を変えていかなくてはいけないポジティブさを与えてくれます。それは、この映画の作風によるものだと思います。
ハンディカムで撮った映像をつなげたかのような撮影スタイル。エキストラではなく実際に現地の人を撮った映像が、よりリアリティをもたせ、絶望していても何も始まらないといった気持ちにさせてくれるのです。

知ったからといって、何かすぐにできるわけではないですが、同じ地球の中で、こういった世界が、今、現実にあるということを知っておくことは、非常に意味のあることだと思います。単なる社会派の映画ではなく、アフリカの音や匂いを感じられ、また人間のエゴと良心の呵責、苦悩が描かれた見応えのある作品でした。
興味をもたれた方は、ぜひご覧下さい。

ちなみにこの「ナイロビの蜂」の撮影クルー、スタッフは、実際に現場のスラムでチャリティ団体を組織し、今でもそれは続いているそうです。